裁判員してきました

nekomakura2007-12-03

先月の28日、ゼミのメンバー共々、赤羽文化センターで開催された裁判員制度フォーラム「体験!裁判員」に参加してきました。東京地裁裁判員制度の広報をかねて定期的に開いているもので、裁判プロセスの中の「評議」に焦点を絞った体験学習です。読売新聞のニュースにもなってますね。


裁判官と裁判員の合議体で事実認定と量刑判断を行う「評議」は、裁判員裁判のヤマ場(?)です。裁判員に「当選」する確率は年末ジャンボ宝くじの下から三番目と同じくらいですので、くじ運の悪い自分は一生関わることのない世界かもしれません。ただ、もしもの時のため&刑訴の勉強も兼ねて参加してきました。


事実認定の難しさ

参加者は5〜6人一組になるよう振り分けられ、それぞれの組にプロの裁判官が一人ついて議論が行われました。議論の対象になったのは、若い男が被害者に暴行し金を奪った架空の事件。まず事前に用意された公判手続のビデオを鑑賞、次に模擬評議に移って事実認定と適用法規について考えた後、最後に量刑判断を行いました。


1時間強の模擬評議のメインになったのが事実認定です。
被告人の強盗の意思をめぐって、誰の証言が、どの証拠が信用に値するか、何を「真実」として確定させればよいのかを議論したのですが、わずか三つほどの論点のために1時間近くを要し、それだけでクタクタになりました。
客観的な証拠によって補強できない論点については「限りなく黒に近いグレー」という言い方しかできず、ならば被告人の利益にと「シロ」にせざるをえない。けれど被害者の証言も信用に足るものだし、この点を「シロ」にしてしまうと適用法規も変わってくる・・・・。あらゆる証言・証拠に客観的な補強証拠があるわけではなく、特に被告人の意思(犯意)などは被告人しか知り得ないものです。しかし事実認定においては、そのような主観的な事柄にも判断を下さざるをえず、極端な場合は有罪無罪の分かれ目にもなります。
自分も含め、グループ一同悩んだのは以上のような点でした。100パーセントの納得はありえないとしても、正直、あと一時間は証拠を精査し議論する時間が欲しかったですね。事実認定というものがここまで難しいものだとは、当事者になってみて初めて実感できました。

素人の意義は?

さらにもう一点、これは周囲の参加者の意見を聞きながら感じたのですが、どうも我々素人は「事実認定と適用法規の決定 → 量刑判断」というよりは、「あるべき量刑 → 該当する適応法規と事実認定」という発想で議論をする傾向があるなぁと。


もちろん裁判の素人が意見を述べることに裁判員制度の意義があるわけですし、すべての参加者がそのようにモノを考えていたとも思いません。
自分は事実認定と量刑判断を意識的に分けて考えよう、分けて考えなきゃだめだ、という意識で評議に臨んだものですから、とりわけ印象に残ったのかもしれません。ただ裁判というものは本来そういうものだろう、何が事実であり、何が事実でなかったかが「主」であり、量刑判断は「従」にすぎないはずだ、という思いはそう間違っていないと考えます。
そのように「意識の予防線」を張っておかなおかないと、被害者への共感に流されて事実を見誤ってしまうのではないか、という危惧があるからです。


しかし、だからこそ周囲の参加者の発言に時折垣間見えたその考え方に違和感を覚えつつも、どこかその発想には理解できてしまうところがありました。被害者が訥々と被害体験を語る中で、被害者へのシンパシーを抱きつつ、峻厳な事実判断を下せるのだろうか。被害者が訴訟参加人としてより積極的な役割を担ってゆくことも決まっています。論理だけではなく「情」のコントロールが素人にどこまでできるか、それとも「情」をコントロールしないことに素人のレーゾンデートルがあるのか。裁判員制度の評価の分かれ目は、この辺りにあるような気がします。

今日のまとめ

ただ最後に付け加えておきたいのは、実際に評議を体験してみて感じたのは不安要素ばかりではないということです。
実は我らがE班を担当されたのが、先の新聞記事にも名前がでています川口裁判官でした。日歯連事件の無罪判決で有名な方ですが、評議の際には最後まで意見を仰らず、論点の整理と議論を喚起する進行役に徹しておられました。最初はためらいがちだった素人の参加者も、素人意見に意義があると言っていただけたことで議論を活発化させることができました。前々から批判のあった裁判官による評議の支配という問題は、裁判官側の運用次第だと強く感じた次第です。
裁判員制度の「成功」が何を意味するのかは様々でしょうが、裁判員の満足という点で言えば、今回のように積極的に、時には拙い意見も引き出しながら評議をまとめてゆく役割を裁判官の方々には担って戴きたいと思いました。


嫌と言ったところで、あと一年半、2009年の5月までには裁判員制度が始まります。一連の司法制度改革の評価を決めるもっとも大きなイベントに違いありません。注視していきたいですね。


追記:2007/12/03
写真は赤羽駅構内、銀座コージーコーナーの「フルーツの宝石箱」。頭を使った後の糖分補給にいきました。


川口裁判官の日歯連判決は長嶺超輝さんが取り上げておられます(p.86)。なんと(・∀・)カコイイ!!

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