『[本]のメルマガ』購読記


かれこれ6〜7年購読させてもらってきた「〔本〕のメルマガ」が創刊十周年を迎え、この度リニューアルされました。
リニューアルの告知が出たときは「まさかHTML化?広告の張り付いたごちゃごちゃした迷惑メールもどきになるのか?」とか考えたのですが、編集体制の変更がメインだったようです。自分自身がボランティアベースの媒体作成に関り、原稿集めやその推敲等、決して片手間でできる作業ではないことが分りました。その点、10年以上ボランティアベースで編集を担当されてこられた方々には一読者として敬服と感謝です。



ただ約6000人もの購読者がいて、とうの昔にまぐまぐの殿堂入りまで果たしているメルマガですが、実はまだまだ出版関係の方でも知らない人がいるようです。
そんなメルマガを何故何年間も購読してきたかというと主に二つ理由があります*1。一つめの理由は、実は大学に入って数年は図書館とか書店とか本に関わる仕事をしてみたいなーと漠然と考えていて、そんな折りにアンテナを立てたら「本のメルマガ」が引っかかってきた → 業界関係者以外にも分りやすくてタメになる、ということで読み出した次第です。


もう一つの理由は、さらに個人的な事情になりますが、記事と記事の間に挟まって自己主張している「イベント告知」等の広告です。
記事メインの読者には邪魔なのかもしれませんが、かつての、そして今の自分にとっても、アカデミック系(特に人文社会科学系)のシンポジウムやトークセッション等の情報はなかなか得にくいものでした。


その事情はだいたい以下のようなものだったと推測しています

  1. 既存メディアではイベントの告知に適していない(広告料>イベントの効果)
  2. 小さなまったりした「語りの場」に人が集まりすぎても困る(告知量は抑制)
  3. そもそもイベントの開催場所が東京に大きく偏っている(出版社等流通側の事情)

特に三番目の点は「大学の街」京都に住んでいる際に強く強く感じたものです。「やっぱり文化・学術の中心は東京なんだろうな」と。
京都には古書街や三月書房、大垣書店等の個性を感じられる書店もあり、なおかつ相当数のアカデミシャンもいます。しかし、それでも東京に比べてアカデミックなイベントの絶対数が少なかった理由は、イベントを後押しする出版社が東京に集中してしまっているからではなかったでしょうか?無論、出版社の集中が情報(infomationもintelligenceも)の集積・発信の一番大きなマーケットである東京に偏るのは自然なことです。ただ、情報流通網の集積が情報発信源のさらなる集積に繋がり、取り残された地域との魅力は大きくなるばかりです。


上のようなことを考えていたのは既にネットが学生にとって標準インフラになっていた00年代前半の話です。ちょっとした小さな集まりに参加したい・知的刺激を受けたい、と思ったとき、地方在住者にとっては「情報を得るリソース」そのものがないという事情。近年こそいろんな情報源(専門のブログ、検索サイト等)が出てきましたが、それでもなお、こういったアカデミックな刺激を与えてくれる「ミニマムな場所」への参加経路がそれほど太くなっていないように思われます*2


そんな中、「[本]のメルマガ」には時々関西でのイベント情報も掲載されたりしたため、当初はたいへん有り難いリソースと感じていました。ただ、購読すればするほど、彼岸との差をさらに強く確信するようになっていったわけですが(笑)
そして3年前に関西から関東の大学へ移ったのも、この「確信」があってのことでした。大学を変える以前より実学系にシフトしていたため、結局は「人文系ヘタレ中流インテリ」(稲葉振一郎先生)にさえなれなかった小生ですが、今でも「[本]のメルマガ」に載るイベント告知をもとに、たまにトークセッションなどを聴講したりしています。


そういうわけで行間広告の影響からキャリアパスさえ変えてしまった人間がここにおります。
おそらく編集者の方々も予想だにしなかった読み方をしているのでしょうが、少なくとも、「本のメルマガ」(姉妹紙の「[書評]のメルマガ 」も)はその程度の影響力を持ってきたし、そしてこれからも持って欲しいと思える媒体なのですよ、とお伝えしたいところです。


「[本]のメルマガ」のさらなる発展をお祈りしつつ。

*1:「無料」だからという理由ですが、これはあまりにも当然すぎて述べるまでもないですね

*2:最新号vol.359で編集同人aguni氏が指摘されている出版業界のこの10年間の変化の無さと何かが重なる気がします