好著発見!吉田一郎『国マニア』交通新聞社

国マニア―世界の珍国、奇妙な地域へ!

国マニア―世界の珍国、奇妙な地域へ!

小学生のころから世界地図や地図帳が大好きで、話し相手のいない休み時間 には地図帳をめくっては見知らぬ土地の風景を思い浮かべて過ごしていました(ノД`) さすがに高校生になって熱意はやや薄れたものの、今でも中学校で使った帝国書院の地図帳は本棚に挟んであって、時々パラパラと捲っては地図上の都市と映画やテレビで見た風景を重ね合わせて空想にふけることもあります。(「机上旅行」という言葉を最近知りました。これで「ご趣味は?」の質問に「旅行です!」と堂々と答えられるお)
もちろん、今では大学図書館を利用でき、ネットでいくらでも映像も文字情報も取り出せる環境にいるため、国連加盟国のようなメジャーな地域にはあまり高い妄想度を覚えたりはしなくなりました。情報量が多いことは逆に想像力の足かせになるのやもしれません。

で。
そんな今でも「なんちゃって地理スキー」にとって胸キュンものの一冊なのが、この『国マニア』。雑誌『散歩の達人』を出している交通新聞社から去年の暮れに出版。その副題は「世界の珍国、奇妙な地域へ!」とあり、変なタイトルだけど旅行ガイドの類かなぁと手にとってみました。
違った。これは地理スキーの地理スキーによる地理スキーのための本でした。世界52のちょっと変わった国家(または国家未満)のおそらく類書なきガイドブック。

その気になる中身

一言でいえば「21世紀にもなってこんな変な国・地域があったのか!?」のオンパレード。いや、「変」というと当該国民・市民の皆さんに失礼ですよね。英領バミューダが独立しないのは、英米法と英国式会計制度のもとでタックスヘイブンが発達しているから。もし、独立国になって独自の法制を作っても、いつ政変がおきるかわからない弱小国では企業が集まらず、植民地のままでいるることが利にかなっているから、だそう。
これまたカリブ海に浮かぶ面積が熊本県ぐらいの小国セントクリストファー・ネイビスでは植民地復帰のために国の一部が独立してしまうことも。背に腹は変えられない理由というものが何処の人達にもあるということですね。


そして、やっぱりキタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!なのが英領ピトケアン島。未成年との性的交渉が発覚して島民男性(市長含む)の半数が裁判にかけられるというニュースで一躍有名になってしまった基本はリゾート地らしい島。英語版wikipedia(Pitcairn sexual assault trial of 2004)によれば、裁判はイギリス枢密院まで持ち込まれて続いている模様ですが、なんだかもともと業の深い歴史のあるところみたいです。
また日本人がビザも何にもなしで自由に滞在できるノルウェー属のスバールバル諸島、映画『ブラックホーク・ダウン』のソマリアを尻目に独立宣言し、安定した統治が実現しているソマリランドなど、全然知らなかった国や地域が出てきます。

感想などなど

コラムのシーランド公国は何度聞いてもおもしろい話だし、チベット自治区についての詳細は別の意味で笑えませんね (#゚Д゚) また沖縄の大東諸島については行政経営の完全民営化という点からも物凄く興味をそそられるところ。21世紀の統治モデルの参考になるやもしれないと一人興奮しました。
総じて、知識欲がこれでもかと満たされてゆく快感を味わえる一冊。こんなに有意義な読書経験はめったに味わえるものではないし、かつ地理への愛着まで思い出させてもらえました。

なお、この著者の吉田一郎さん。経歴も面白い方ですが、どうやら「野次馬的アジア研究中心」の管理人さんの模様。こちらのコンテンツのひとつ、世界飛び地研究会は前々から面白がって読んでいたサイトだったんだけれど、その中のいくつかの記事は本書にも取り入れられていますね。現在は早稲田の大学院で国際関係を学んでおられるとのことです。
次回作が楽しみだなぁと思ってたら、社会評論社から

世界飛び地大全―不思議な国境線の舞台裏 (国際地理BOOKS (VOL.1))

世界飛び地大全―不思議な国境線の舞台裏 (国際地理BOOKS (VOL.1))

なんて本が出る模様。詳細は社会評論社の紹介ページへ。こちらは世界飛び地研究会を書籍化したもののよう。まとめて読めるなら便利だし、買ってみようかな。

今日のまとめ

ただ、できれば『国マニア』をもうちょっとバージョンアップさせてほしい気も。まず、巻頭のカラー地図は大雑把過ぎて本書の詳細な記述からは十分参照するには足らない。また各記事のタイトル下の地図も小さすぎ。せめてページの半分ぐらいの、首都や主な地理情報が読み取れるような地図を載っけてほしいです。
また、各地域情報ももう少し表なんかにして詳細を。個人で旅行するための方法なんかもあればさらにグッドですね。ただ、そこまでするとページが増えすぎるか・・・
ただ、これだけは必ずつけてほしいのが参考文献。ここで手を上げてる (´Д`)/ 個人でさらに探求したい読者の便宜を図ってやってください。


筆者が「あとがき」で触れている国籍売買の話なんかも、日本を出れば決して映画の中とかブラックマーケットだけの話じゃない。そしてそれだけ「国家」とか「自治」とかいうことの実態もそれなりに柔軟で、チャランポランしたものらしい。
統治のあり方も、統治のされ方も、国の数だけ多様だということ。というわけで、世界はとても広く、そしてそれなりにいい加減で、地図帳で色分けされたようにはカッチリしていないもののようです。
やっぱり、地理は楽しい。