感動する実用書:ロビン・ウィリアムズ著『ノンデザイナーズ・デザインブック Second Edition』

図画工作も美術もずっと成績「3」だったけど、それでもパッと見で不愉快にならないような文書を作りたい、という人は少なくないんじゃないかな。
本書は、まさにタイトル通り、「Non-デザイナー」たる一般人がより優れたレジュメ・期末レポート・チラシ・名刺・パンフレット・新聞広告からウェブサイトまで、おおよそすべての平面のデザインを作るための基礎の基礎を教えてくれる一冊。

本書の魅力と効用

実用書のネタばらしはルール違反なんだろうけれど、本書の要点をかいつまんで言えば、
文書資料の「見た目」は

  1. 近接
  2. 整列
  3. 反復
  4. コントラスト

が「基本原則」である、ということ。
徹底的な図解と平明な語り口でもって説かれるのは、この、たった四つ。


ただ、これらの原則は、なにかしら文書なりウェブサイトなりをデザインをしたことがある人ならば、ある程度心当たりがあったり、無意識に身に付いてたりすることだろう。じゃあ本書は「あたりまえ」の退屈な繰り返しばかり書いてあるのか、というと勿論そうじゃない。著者Robin Williams自身が冒頭で述べているように、

いったん何かの名前を呼ぶ事ができれば、あなたはそれを意識し、それを支配し、それを所有し、それをコントロールできるようになる(p12)

読者はこれらの基本原則を知る事で、無意識に行っていた作業を意識的に行う事ができるようになる。チェックすべきポイントを把握する事で、試行錯誤の手間が大幅に削減できる。もうレジュメの表題を左揃えにするか、中央揃えにするかで、いちいち手間をかけたり悩まなくてすむだろう。


よっしーブログさんがいみじくも指摘しているように、本書の四つの基本原則を知れば「はずれ」なデザイン=見た目で不愉快や違和感を持たせない文章資料を作る事ができるようになる。偶然。最初からよいデザインが出来上がった時も、なぜそのデザインが「よい」のかを分析できるようにもなる。そして、そこから、より大胆な「はずれ」てないデザインにも踏み込んでゆけるようになる。

感想とか教養としてのデザイン(?)とか

冊子を作る作業があったので、最近ひさしぶりに押し入れから引っ張りだしてきて読んだ。
分かりやすい。
そして何よりおもしろい。
軽快な語り口なのに、その節々から著者のデザインへの理念が垣間見えてくる

「ルールを破れるようになるには、まずルールを知らなければならない、ということです」(P47)

「だれの目も引かなければ、だれも読んでくれない」(p64)

デザインなんてものは、結局のところ個々人の感性で「よい」「悪い」と判断されうるものだけれど
著者は感性に訴えながらも、論理的に「よい」デザインを説いてゆく。それができるのも、著者がほんものの玄人だからであり、我らが素人に何が足りてないかをズバリ指摘してくれる。著者の「職人」としての経験に裏打ちされたデザイン哲学こそ、本書を成立されるバックボーンなのだろう。


そんな事を考えつつ、もう一歩すすめて本書の有する社会的効用について。
読書感想文のための原稿用紙を離れて、ワープロソフトで文章を作り始めたのはたぶん高校生ぐらいからだったと思う。今時の子供ならもっと早いんだろうし、授業でもWordやパワポの使い方を習っていたりするみたいだ。でもそれらは「情報処理」と名のついた授業であって、けっして「図画工作」とも「美術」ともリンクしてないんじゃないだろうか?もちろんそれぞれ異なる目的のもとに授業内容は編成されているんだろうけれど、相互乗り入れしている部分だってあるんじゃないのかなぁ、と考えてしまう。


このノンデザイナーズのための四つの基本原則なんかがもっと人知に膾炙するようになれば、諸々のプレゼンとかレポートとかがもっと読みやすく(外見だけでも)興味のそそるものになるだろう。そうすれば、何より、それにつきあわされる側の労苦を削減できる。
そう考えると、著者のいう「より発達した視覚的認識」(p86)というのは、教養としてのデザイン(感覚)のことになりはしないだろうか。「共有知としての教養」としての、よりよいデザインをする・見抜く知恵。
そのためのテキストブックとして、本書は適任じゃないだろうか。

おまけ、はてなで質問してみた

本書の後半はタイポグラフィー(フォント)の話になって、内容はより技術的になる。けれど四つの基本原則はそこでも生き続ける。巻末のAppendixで和文フォントについての解説もありがたい。


本書は、かつて通っていたウェブデザインの教室で教えてもらったんだけれど、一読したときはまさにキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!。大学のレポートやらプレゼンやらで、どうやったらもっと見た目のよい文書を作れるのか、そのノウハウを知りたくて、でも誰に聞けばいいのか分からずに疑問を抱えていたちょうど其の時に出会ったこともある。
本書は実用書に違いない。けれど、その分かりやすさと奥深さに「感動」を覚えずにはいられない一冊。まさに一生もの。


本書は、Amazonのレビューを見ても、その道のプロの方には「当たり前だよね」と評価されている。でも「その道」にいない者にとって、その「当たり前」に触れる事は容易じゃないわけで。
こういった「その道」にいない者に、「その道」の極意とかエッセンスとかを分かりやすく滋味あふれる文章で説いた書籍というのは、多分、もっとあるんじゃないだろうか。そういった一冊が、あまり知られていないとしたら惜しい事だ。
と、いうわけで今月の無駄遣い。

人力検索『あなたの読んで感動した実用書を教えてください。』
さーて、何がでてくるだろう。皆さんのキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!を御待ちしております。


追記20061107
●質問を終了して


皆様回答ありがとうございました。
10件以上あつまりよかったです。


ただ、日常生活や業務上の個別領域の技術というよりは、一般論や精神論に関する書籍が多いですね。
其の点が質問者としてはやや不満でありますが、質問したカテゴリ(生活)(書籍・映画)が悪かったのかもしれません。
もっと理系畑や専門技術職の方々からの紹介が欲しいですね。再度質問を立てるやもしれません。

追記20090607
タイトルをちょっと変更